数多くの「燃費向上グッズ」やアーシングなどは、DIYでできるちょっとした変更で、車のパフォーマンスを向上させることを謳っています。安く、簡単な作業で、自分の車のポテンシャルを引き出すことができるのなら、大歓迎です。こうした処方を行った人たちの多くは、「低速トルクが向上した」、「燃費がよくなった」など、肯定的な評価を下しているようです。
アーシングについては、理論的な裏付けもされていますが、自動車の素人には正直、よく分からないところもあります。このようなお手軽チューニングでは、もちろん、性能の向上を自分が「体感」できるかどうかが重要になってきます。その効果が全く体感できないのであれば、多くの人にとって、そうした変更は無意味でしょう。
しかしながら、ここに重大なジレンマが横たわっているように思います。つまり、体感できるかどうかはそのチューニングを行うかどうかを決定する重要な要素の一つですが、体感できたからといって、それが本当にパフォーマンス向上を意味するとは限らない、というジレンマです。
分かりやすく説明するために、新薬の開発を例にとって説明しましょう。今、片頭痛によく効く新薬が開発されたとします。従来の薬では頭痛を解消することのできなかった患者にも効果が期待されるすばらしい薬だと製薬会社は考えています。薬を実際に医療現場で使えるようにするには、臨床試験によるデータ収集が必要です。そこで製薬会社は、片頭痛に悩む患者を2群に分け、片方には新薬を投与し、もう片方には何の処方もせず、様子を見るという臨床試験を実施しました。結果は一目瞭然、新薬を投与した群では、ほとんどの患者に症状の改善が見られました。さて、この結果から、この新薬の効果を認めることはできるでしょうか。実は、この症状の改善は薬の効果ではない可能性があるのです。単に薬を処方されたというだけで、その薬には何の効果もないのに病気が改善してしまう、不思議な効果があるからです。
この効果は偽薬効果やプラシーボ効果などと呼ばれています。「病は気から」という言葉があるように、医師から薬を処方されただけで安心し、病気が改善してしまうことがあります。従って、薬の効果を調べるためには、投与群、非投与群、という2条件だけではなく、実際には効果の全くない「薬」を投与する偽薬群 (患者には自分に投与された「薬」が本物か、偽物か知らせない) も含めて検討する必要があるのです。偽薬群と投与群との間で治療効果を比較し、投与群の治療効果が偽薬群のそれを上回ったなら、その新薬には、本当に治療効果があったと言うことができるでしょう (偽薬群と非投与群との間に見られた差は「偽薬効果」と言うことができます)。また、もう一つ重要なのは、治療効果を評価する者には、患者がどの群に割り当てられたかを知らせない、ということです。これから治療効果を判断する患者が、本物の薬を投与された者か偽薬を投与された者かを知ってしまえば、先入観が入って客観的な判断ができない可能性があるからです。こうした手法は、患者にも、その患者の治療効果を判断する者にも、実験の詳細について知らせないという意味で、「二重盲検法」と呼ばれています。
さて、こうした科学的手段が、多くの燃費向上グッズやアーシングなどでの効果を検討する上で用いられているのを見たことがあるでしょうか。多くの人は効果を体感するのが最も重要だと考えており、また、「体感できる効果があった」という複数の報告を聞くだけで、その効果を信じてしまいがちです。自動車の専門誌や自動車評論家などには、ぜひこうした科学的手段で巷にあふれる様々な「お手軽チューニング」を評価してもらいたい、と思います。おそらく、それらのいくつかは全く効果がない、ということが実証されるのではないかと思いますし、逆に今まで怪しいチューニングと思われていたものに本当の効果があることが分かるかもしれません。