もう3年近く前に体感のジレンマというエントリーを投稿しました。長文なので端折って説明すると、自動車の改造やチューニングで体感できることは重要なのことだが、体感できるからといって本当に効果があるとは限らない、というお話です。たまたまAudiStyle.comの掲示板で、オイル交換は本当にメーカー指定の15,000km毎でよいのか、という投稿があり、このことを思い出しました。
エンジンオイルは消耗品なので、早めに交換して車に悪いことは何もない、というのは一見もっともな主張と思います (注1)。オイル交換の後は「フィーリング」がよくなるという主張や、特に新車時にはエンジンの摩擦によって金属粉が出るので、1,000km程度で交換するべきだという意見も耳にします (注2)。
これまでオイル交換をして、その前後で何か違いに気づいたことが一度もない不感症の僕には、この「フィーリングがよくなる」という感覚について実は疑っています (少なくとも、4輪の場合には)。本当はオイル交換をしていないのに、「交換しておきましたよ」と嘘をついても、「やっぱりフィーリングが違うなあ」と言うように思えるのです。仕事柄、人間の主観的感覚を全く信用できなくなっているというのもあるかもしれません。実際、精神物理学や心理学がこれまで100年もかけて明らかにしてきたのは、人間の感覚のいい加減さであり、精神的世界と物理的世界とは直線的な関係にあるわけではないという冷厳な事実が示されてきたからです。人々の実感が事実を反映したものではなくても、それは仕方がないことなのです。物理的現実を正確に反映した感覚を持つ一握りの人をわれわれは名人と呼んで尊敬するわけですから (熟達したすし職人が1粒違わずしゃりを握るとか)。
さて、多くの人々は、目隠しテストをされても、本当にオイル交換前後の違いが分かるのでしょうか。以下のような実験をぜひしてみたい。実験参加者は30名~40名程度でよいでしょう。
手続き
1) 事前測定
全ての実験参加者に、15,000km程度オイル交換をしていない自動車を決まったコース走らせ、走行性能についての簡単な質問紙調査に回答させる。
2) 実験参加者をランダムに以下の3群に分ける。
・実験群 自動車のオイルを新品に交換し、「新品に交換した」と教示を与える。
・統制群 自動車のオイルを交換せず、「交換しなかった」と教示を与える。
・偽薬群 自動車のオイルを同程度に古いものに交換し、「新品に交換した」と嘘の教示を与える。
3) 事後測定
全ての群の実験参加者に、事前測定と同じコースを走らせて、走行性能が事前測定に比べて向上したかどうかを評価させる。
実験参加者ががオイル交換による違いを十分理解できるのならば、事後測定における走行性能の評価は、実験群>偽薬群=統制群、あるいは、実験群>偽薬群>統制群 (偽薬効果が出た場合)となるはず。もし、実験群=偽薬群>統制群という結果が出た場合には、実験参加者は、単に「新品に交換をした」という思い込みだけで評価した、という結果になります。さて、どうなるでしょう。どういう実験参加者を呼んでくるかによってずいぶん違いが出るかもしれません。どこかの自動車雑誌でやってみてください (オイル以外でもいろいろネタはありそうです)。スポンサーの関係で難しいかしら。
※注1 しかしながら、全ての消耗品は、消耗品の定義からして「早めに交換した方がいい」わけで、コストや環境負荷のことを考えると、「どのくらいで交換するのがよいのか」という問いに対して「早めに交換して悪いことはない」という回答を与えることは論点のすり替えを行っているとしか思えない。バッテリーだって3年に1回ではなく、1年に1回にすればバッテリー上がりの可能性は飛躍的に低下するだろう。
※注2 これについては、メーカーが保証するのだから問題ないだろう。「保証期間が切れた後に壊れる」ということについても、少なくともアウディには「認定中古車」の制度があり、質の高い中古車を市場に提供することで二重に儲けを得るというビジネスモデルがある限り、下手な嘘をつくとは思えない。
コメント (15)
バイクならOIL交換後にOILの香が楽しめます(爆
4輪は臭わないのでエンジンの音で確認しかないですね。
投稿者: エスロク | 2007年03月06日 20:57
すっかり、ご無沙汰です。S4になったんですねー。
この3群間での比較、面白そうです。有意差でそう。学生の卒論としても十分に通用しそうな気がするネタですね。
投稿者: kuro | 2007年03月06日 21:45
エスロクさん,
> バイクならOIL交換後にOILの香が楽しめます(爆
バイクはすごく変わるそうですねー。減りも早いんですよね?
kuroさん,
> すっかり、ご無沙汰です。S4になったんですねー。
こちらこそすっかりご無沙汰です。どうも最近のアウディの進む方向が分からなくなって、今のうちに気に入ったのを買ってしまえと思って買っちゃいました。
> この3群間での比較、面白そうです。有意差でそう。学生の卒論としても十分に通用しそうな気がするネタですね。
自動車の世界って、未だに専門家も「体感」で議論しているんですよね。車好きな学生がいたらこれで卒論書かせてみます (笑)。
投稿者: 大彦 | 2007年03月07日 14:13
初めまして、
以前乗っていた国産車ですが
240,000Km乗りましたが
オイルを3,000毎で交換していました
高速を頻繁に走るため、ターボ付きで8,000rpmまで
よく回しましたが乗り換えの時の
エンジンはとても快調でした
オイル交換はあなどれません
投稿者: とおりすがり | 2007年03月09日 13:08
このテストの問題は、日常的に載っているユーザーの細かな感覚をフォローできないことだと。道具を扱う人間の感性は熟練するほどに鋭敏になってきます。
ですので、テストは、本人がいつも乗っている車をもってきて参加してもらうことが大事です。
そのうえで、差異を顕著にするために
以下の2つのテスティング。
1)オイル交換して無い車でありながら、被験者にはオイル交換したと告げる
2)オイル交換した車にも関わらず、汚れていなかったのでしてないと告げる
さらに、別のメニューとして
3)いつも使っているオイルより硬いオイルを入れて交換してないと告げる
4)いつも使っているオイルよりやわらかいものに入れ替えて交換してないと告げる。
ちなみに自分は過去に間違えて硬いオイルを入れられたときに、すぐに違いに気づきました。明らかに以前よりふけ上がりが悪かったからです。
あと、安いオイルだと変えてもあまり換わりませんね(笑)
投稿者: ta_tsu | 2007年03月09日 16:20
とおりすがりさん,
> オイルを3,000毎で交換していました
> 高速を頻繁に走るため、ターボ付きで8,000rpmまで
> よく回しましたが乗り換えの時の
> エンジンはとても快調でした
問題は、それがオイル交換を頻繁にしたからとは限らない点にあります。
全く同じ条件でオイル交換をあまりしていない車との比較を行う必要があるでしょう (それは実際問題かなり難しいですが)。
ta_tsuさん,
> このテストの問題は、日常的に載っているユーザーの細かな感覚をフォローできないことだと。道具を扱う人間の感性は熟練するほどに鋭敏になってきます。
興味深く読みました。当初は個人差をあまり重要な変数とは考えていなかったのですが、僕みたいな鈍感な人間から、鋭敏な方までかなりばらつきがありそうですね。この実験とともに、サーキットでのラップタイムを計って、「遅いやつはオイル交換にも鈍感で、でも、自分は違いが分かる人間だと思いやすい」とかそういうことが分かればおもしろいな、とすこし意地悪な予測をしてみました。
投稿者: 大彦 | 2007年03月09日 20:53
コメントありがとうございます
たしかに頻繁オイル交換と間の開く交換との
違いを同じ条件で同時に出来るはずも
ありません、が・・
自動車はエンジン又駆動関係で
物と物の こすれ て動いています
この こすれ をかぎりなく無駄の
ない様にするためで(他にも役割はありますが)
古くなったオイルや粗悪なオイルでは
油膜が切れる場合が有ります
この切れるという場合がエンジンや駆動系
にストレスをかけます、しいては、
(エンジン)メタルの焼付きや高回転での伸びの悪さ
(駆動系例えばノンスリ)のききのタイミング
で実感できる様になります
ただ 一回かぎりでの体感ではわからない
かもしれませんね。
投稿者: とおりずがり | 2007年03月09日 22:33
とおりずがりさん,
> 古くなったオイルや粗悪なオイルでは
> 油膜が切れる場合が有ります
> この切れるという場合がエンジンや駆動系
> にストレスをかけます、しいては、
> (エンジン)メタルの焼付きや高回転での伸びの悪さ
> (駆動系例えばノンスリ)のききのタイミング
> で実感できる様になります
お返事ありがとうございます。エンジンオイルが車にとって重要な消耗品であるということについては、僕も全く同意します。僕の今回の関心は、オイル交換の前後で、人々はその違いに気付くことができるのか、ということでした。多分熟練したドライバーはその違いに気付くことができるのだと思いますが、多くの人がご自分のブログ等で語っている「オイル交換後に走りがよくなった」などのコメントは怪しいなーっと思う、というのが正直なところです。
投稿者: 大彦 | 2007年03月10日 01:07
そうですね、実際のこと車を洗車した時でも
などなにか車が,,かろやか,,
になった感じがするのは私だけでしょうか
たしかに、交換の間が開いた時の交換後のエンジン音など静かになります,人間の持っている、,,こうなるだろ,,うとかの思い込みや気分転換でそう感じるのかも
知れません
投稿者: とうりすがり | 2007年03月10日 09:53
あ、洗車した後にかろやかになるのは僕も感じますね。「あ、車機嫌が良いな」とか。まあ、人間の感覚ってそういうもんなんですよね。それがおもしろいというか。
投稿者: 大彦 | 2007年03月10日 14:55
大彦さん、
オイル交換後の体感について、16万キロ乗った90君の時には、5000kmで、ディーラー持ち込み交換してましたが、体感的にはあまり感じなかったと記憶しています。
が、しかし近くのショップで高品位なOIL(Mobil 1)入れたときは、明らかにエンジンの回りが軽やかになりました。
あのバナナの宣伝に、間違いありませんでした。・・・(^^
以来Mobil信者です。
投稿者: yoshi-s4 | 2007年03月10日 19:53
yoshi-s4さん,
> あのバナナの宣伝に、間違いありませんでした。・・・(^^
なるほど、オイルといっても銘柄によって随分違うんですね。実験で使うオイルはバナナのやつにしなきゃ (^^;
バナナのやつはアウディ純正のやつより高性能なんでしょうか。
耐久性とかはどうなんでしょうね。
投稿者: 大彦 | 2007年03月10日 23:59
大彦さんは、医学的治験の観点で考えられたとおもうのですが、僕らはおもにソフトウエアのユーザーインターフェイステストのときに、こんな感じでテスティングしてました。マーケティングのアンケートでも、あえて否定抽出と肯定抽出を行うとマーケッターが話してました。
ちょっとやってみたいですねー。どっかの雑誌かJAFとかでやってくれないかな。
投稿者: taZ8 | 2007年03月14日 00:00
taz8さん,
> ちょっとやってみたいですねー。どっかの雑誌かJAFとかでやってくれないかな。
どこかがやってもよさそうなものなんですけどね。雑誌がやるなら実験屋として安いギャラで協力しますよ (笑)。
投稿者: 大彦 | 2007年03月16日 00:47
オートメカニックが時々OILの比較をしてます。
最近読んでないですが、色んな比較をしてます。
OILはやはり価格の高い100%合成がいいようです。
投稿者: エスロク | 2007年03月17日 12:33