購入の経緯と交渉、納車 (2003年夏〜秋)


キーホルダー

 左写真: 契約前にいただいたキーホルダー (右)。左はマスターキー。


買い換えの決意

 平成9年式のカムリグラシアセダンが2004年9月に3度目の車検を迎えます。カムリはトヨタの世界戦略上非常に重要な車で、全世界で50万台を売ってきました。一時期、日本では5ナンバーの国内専用「カムリ」と3ナンバーの「カムリグラシア」が併売されており、海外で売られていたのは後者の大きなモデルです (2001年にカムリは一本化されて3ナンバーの「カムリ」だけになり、5ナンバーの国内専用カムリは姿を消します)。アメリカではホンダのアコードと販売ナンバー1を争っており、カローラ並に売れ筋の車ですが、日本では車体が大きすぎてほとんど売れなかったモデルです。マークIIと同じくらいの大きさなのですが、ネームバリューが低く、同じ額を出すならマークIIを選ぶという人が多いのでしょう。マークIIより若干安いのに、広くて静かな、とても優秀な車なのですが、長時間乗っていると腰がだるくなる柔らかいシートと、横揺れの収まりが悪い下回り (ショックが抜けていたのかもしれない) には不満でした。家の近所の道が狭くて取り回しに苦労するのも問題です。そこで、実は買って間もないのですが、車検の前に買い換えを考え始めました。

 買い換えは来年の予定ですから、急ぐ必要はありません。ゆっくり色々な車を見る予定でした。マツダのRX-8がデビューして、ずいぶんよさそうだという話を聞きました。RX-8のWebサイト見て、かなり興奮もしました。さっそく近くのディーラーへ。噂の観音開きドアでアクセスする後席は想像以上に快適です。これなら長時間4人でドライブしても問題ないでしょう。ところが、一番ほしいと思っていた5速MTのグレードだと本革シートにできないとのこと。今度買う車は本革シートが必須だと思っていただけにこれは残念です。4速ATの試乗車が用意してありましたが、予約をしないと試乗できないとのこと。見に行った時は空いていたのですが、予約しないとだめだそうです (すごく欲しいと思っていましたが、ここでちょっと冷めました)。営業の人はとてもいい感じの人でした。

 レガシィもフルモデルチェンジしました。少し大きくなって3ナンバーサイズになりましたが、全面的に設計を見直して重量は軽くなったとのこと。改良点の中でも特に内装がすばらしい。格段の進歩です。内装はアウディ、走行性能はBMWあたりをベンチマークにしたようです。スバルはすぐに試乗させてもらえました。くねくねのアップダウンのある道をわざわざ選んでくれたので、ハンドリングやブレーキ性能をいろいろ試してみました。乗ったのは2リッターのGTで、ターボは想像以上に使いやすくなっているし、よく曲がります。ブレーキにはずいぶん自信があるようですが、これはよく分かりませんでした。サスペンションや椅子は堅めで、どのグレードでも同じ椅子が付いてくるとのこと。欧州車のような椅子、これは好印象です。5速スポーツATをマニュアルシフトモードで操作してみましたが、これはいまいち慣れません。とりあえず車は気に入りました。しかし、レガシィは街中でたくさん走っています。多分このレガシィもたくさん売れることでしょう。よい車はよく売れる。当たり前のことですが、あまり多く走っている車は避けたいへそ曲がりな気持ちもあります。

 ドイツ車にはもともと興味がありましたが、メルセデスやBMWに乗る度胸はそれほどありません。サーブは好きですが、GMの一員になったのが何となく気に入りません。ボルボは以前カタログを送ってくれなかったからやめておきます。メルセデスはカタログの請求をしたらフェアの案内が送られてきたので見に行ってきました。興味があったのはCLKクラス。もちろん、僕の予算を大きくオーバーしていますが、いつかは乗りたいと思って見せてもらいました。ところが、ここのヤナセはあまり対応がよくない。コーヒーを出して頂きましたが、なかなか営業が出てこないのです。常連さんにはちゃんと対応しているようですが、僕は居心地が悪く、車にもあまりよい印象を持ちませんでした。最後にやっと女性社員 (営業かどうかは知らない) が出てきて少しお話をしましたが、驚くほど話が盛り上がりません。冷やかしだと思われたのかもしれません。CLKは試乗車がなかったので、試乗もしていません。女性社員は、社員にCLKオーナーがいるから、今度是非試乗してください、と言ってくれましたが、この段階ですでにこちらは乗り気になれない状態です。また、最近のメルセデスの丸を基調とした内装デザインも気に入りませんでした。BMWの3シリーズはカタログだけ見ましたが、友人から、僕のイメージに合わないと一蹴され、あっさり諦めてしまいました。318tや318tiなら射程範囲だと思ったのですが、やはりBMWなら6気筒がいい、シルキーシックスじゃないとだめだろうなどとつまらぬこだわりが出てしまいます。

 さて、これだけ活発にディーラーを回っていると、来年の予定がすぐにでもほしくなってしまいます。次に、バブルの頃憧れていたアウディを見てみようと思い立ちました。アウディ80やアウディ100はかなり好きで、グラシアを購入する時、中古で買おうかと迷ったほどです。維持費がたいへんだと思いとどまったのですが、やはりアウディは好きなメーカーです。A4のカタログを請求するとさっそく近所のディーラーから連絡が来ました。このディーラーは「ヤナセアウディ販売」というところで、ヤナセがアウディジャパンと共同で出資して作った会社のようです。メルセデスを扱っているヤナセとは別会社のようですが、ヤナセでちょっと嫌な思いをしただけに、行ってみるかどうか若干迷います。

 が、結局行ってしまいました。A4の2.0SEというグレード (本革シートが標準装備されたFFの2003年モデル) に試乗してみて、すぐに気に入りました。トランスミッションがCVT (アウディが自前で作っているマルチトロニック) で、出足が多少ぎくしゃくするし、エンジン音もあまり上質な感じはしなかったのですが、椅子やサスペンション、内装のできに感動してしまいました。いや、走行性能に関する満足度はレガシィとほとんど変わらなかったのかもしれませんが、おそらく最終的に心が動いたのは内装でしょう。CVTは変速ショックが全くないため、いったんスピードに乗ってしまえば非常に快適です。ぐんぐん、息継ぎせずにスピードが上がります。まるで電車に乗っているみたい (電車は多分無段変速ではないでしょうけれど)。アウディならクワトロだと思っていましたが、クワトロに対応したCVTはまだ出ていないようです。CVTでも6段階に区切ったティプトロニックモードがあり、これは新型レガシィのスポーツシフトよりもきびきびしている感じがしました (あくまで感触。技術的なことは全く知らない)。試乗したアウディA4 2.0SEは、車両本体価格が399万円。来年までに頭金を貯めれば射程範囲内だと判断しました。どう考えてもこのクラスに400万円は高いのですが、冷静になれないときはしばしばこうした判断をしてしまうものです。

 この段階で、アウディ以外の車は全く見えなくなっています。BMWを考えている時は「6気筒じゃないと嫌だ」と思っていたのに、FFのアウディをほしがるというのは何という節操のなさでしょう。アウディの営業マンは、買い換えるのは来年と言っているにもかかわらず、頻繁に連絡をくれて、新型A3のDVDも送ってくれました。担当の営業マンには非常に好印象を持ちました。新型A3を見に行ったとき、担当がお休みで、代わりに別の営業マンが相手をしてくれたのですが、彼によれば、ヤナセは9月が決算期で、2003年モデルの在庫ならかなりの値引きができるので、今年購入するのも一つの手だとトドメを刺すような一言を言ってくれました。


交渉

 さて、お盆休みの間、実家でゆっくり考えて、もう今年中に買う気になってしまいました。こういうことは、考えすぎるとよくないものです。ほしくなったらさっそくカムリグラシアの下取りのことを考え始めます。僕の乗っているカムリグラシアは2.2リッターのセダン、Sセレクションというグレードです。ステアリングとシフトノブは別のカムリの本革純正仕様のものを移植してあり、オーディオはオークションで安く手に入れたトヨタ純正の2DINタイプのCDカセットに換装してあります (それまではディーラーオプションの1DINのCDレシーバーを装着していた)。色はシルバーで人気色なのですが、セダンよりもステーションワゴンの方が売れた車です。当然、不人気車ということで、下取りは額は期待できません。カローラ店で下取りの見積もりを取ったところ、がんばって40万円という額です。相場を知るべく、買い取り専門店のジャックとガリバーに買い取り査定をしてもらっても、やはり30万円から40万円程度がいいところだとの話です。うちに来たガリバーの査定係は「うちは大手だから」と言うばかりであまり詳しい査定をしていないようです。ジャックはかなり綿密に調べて、修復歴がないこと、後ろのドアに板金の跡があることを見抜きました。板金は前のオーナーさんがぶつけて修理したのでしょう。前のオーナーさんは新車時にコーティングをしており、塗装がとてもいい状態で、内装もきれいです。整備記録や記録簿も完璧に揃っています。ジャックの担当者はぜひ売ってほしいとのことでした。

 買い取り業者にグラシアを売るにしても、納車の時期がはっきりしなければ具体的な話ができません。8月中旬、見積もりを取るべく、ディーラーに向かいます。ところが、たまたま運悪く、担当者はお休みです。前回A3を見に行ったときにもお休みでしたし、どうもタイミングが悪い。A3の時の営業マンと少しお話をしましたが、値引き額などは担当者と話してほしいとのことです。狙っている2003年モデルのミングブルー (希望オプションは、純正ナビのMMSとキセノンヘッドライト) は在庫がないそうです。とりあえず担当者がいなければ仕方がないので、翌日出直しました。

 さて、出直しです。さっそく担当者に2003年モデルの在庫車を調べてもらいます。ミングブルーは譲れないところですが、MMS (MDとグローブボックスに収納される6連奏CDチェンジャー付き) 付きとなるとやはり在庫がないようで、色かMMSかどちらかを諦めなければなりません。営業マンは、純正ナビのMMSは機能が乏しいから、社外品を取り付けた方がいいと勧めてきます。純正のオーディオ (アウディシンフォニー) は音がいいので、それを残したままでオンダッシュで社外品を付けるのがお勧めのようです。ディーラーは当然純正品の装着を勧めると思っていただけに少し驚きました。しかし、とにかく内装デザインが気に入ったということもあり、できるだけ純正品以外のオプションは付けたくありません。今までナビゲーションを使っていなかったこともあり、設計の古い純正DVDナビでも十分満足できるという計算もあります。多分、僕の性格だとCDナビでも十分満足できたでしょう。ちなみに、通常32万円のMMSが、キャンペーン中で今なら18万円です (2003年8月末契約分まで)。キセノン (自動ヘッドライトハイトコントロールとヘッドライトウォッシャーも付き) は10万円。

 エボニーブラックなら、MMSとキセノンの付いたモデルが手に入るようです。支店長が出てきて、「押さえました」と出力用紙を持ってきます。同じ色のA6を持ってきてくれたので、外で見てみると、結構格好がいい。2003年モデルなら、値引きと下取りの合計で70万円引きだとのことです。しかも、1年間メンテナンスフリーのボディーコーティング (通常4万円) がサービスで、そのほかにもほしいディーラーオプションがあったらただで付けるという非常によい条件でした。下取り車があることで値引きをがんばれるのだということですから、買い取り業者に売るのはこの時点でやめました。買い取り業者に条件について話してみると、「それはディーラーに下取りに出した方がお客様にとってもお得です」と言ってくれました。ジャックの担当者が教えてくれたアウディの値引き相場を考えても、僕が提示された条件は十分魅力的だということが分かりました。インターネットで調べる限り、値引きについてさらに交渉の余地はあるはずですが、紺色 (ミングブルー) を諦めきれないこともあって、結局これ以上の交渉はやめ、購入は見送りました (それにあまりがつがつした交渉はしたくありません)。今乗っているグラシアも本当は紺色がほしいのに諦めて少し後悔していたところだったのです。担当の営業も「妥協してまで買うのはよくない」と言ってくれたこともあり、やはり来年以降の購入を目指そうと思って帰宅しました。無理矢理買わせようとしないのは好感が持てます。「在庫のキャンセルが出てこないか、こちらでもうちょっとがんばってみます」とのことです。

 帰宅して、すっかり来年購入モードに入っています。買い物をする時はカタログを見ている時期が一番楽しいだけあって、変な安心感もある。ほしいモノは手に入れたとたんにつまらなくなってしまうことがよくあります。ほしいと思っている時が一番楽しいものです。などと油断していると、携帯にアウディの営業マンから電話が入りました。やはり、ミングブルーの在庫車は見つからなかったとのこと。ただ、2004年モデルなら、今ドイツから船便で輸送中のものがあると言います。ただし、ミングブルーは2004年モデルからなくなって、似たような色のモロブルーになるようです。紺ならいいと思っていたのでこれは問題ありません。2003年モデルと同じとまではいかないまでもかなりの好条件 (マネージャーに了承をもらってきたそうで、他の人には話さないという約束なので、その協定を守ってここには書きません) を提出してきたこともあって、夜、家に来てもらいました。MMSとキセノンが付いたモロブルーの2.0SEは一台だけだそうです。2004年モデルでは日本に一番早くに来るものだそうで、僕の住んでいる街ではモロブルーのA4は納車第一号になります。ただし、納車は10月になってしまいますから、当然MMSのキャンペーンは終わっていますし、0.9%の特別金利もなくなっているかもしれません (これは9月末まで)。

 僕が考えていた支払いプランは「アウディSローンプラス」というもので、3年間で車両価格の60%を支払い、残価の40%分については3年後に一括で支払うか、再びローンを組むか、下取り (走行距離3万キロ以内なら車両価格の55%という保証付き) で支払うか、という選択のできるものです。これなら頭金がなくても何とか支払いができます。基本的に200万円台の車を3年ローンで買うのと負担はそれほど変わりません。特段裕福でもない庶民なので、この種の残価設定型ローンがなければすぐには買えなかったでしょう。MMSのキャンペーンが終わってしまうこと、金利が下手をすれば2%台になってしまうことを色々考えるとすぐに返答できるものではなく、一晩考えさせてもらうことにして、とりあえず帰ってもらいました。しかし、もうほとんど心は決まっています。1台しかないので売れてしまうかもしれませんが、高い買い物です。少し冷静になった方がよいでしょう。

 やはり一晩考えても決意は変わりませんでした。朝、営業マンに電話を入れます。仕事が休みだったので、さっそく家に来てもらい、仮契約を済ませました。もしかして9月中に納車できるかもしれないので、そうなったら0.9%金利が適用されるとのこと。


納車まで

 やはり、そうでした。仮契約を済ました段階で、もうすっかりつまらなくなってしまったのです。頭に浮かんでくるのは支払いのことと、大きな意思決定をしてしまったことの不安だけで、A4が来ることの楽しさというのは全く考えられません。大きな買い物をする時、僕はいつもこれです。やはりカタログで脳内納車を楽しんでいた方が楽しい。しかも、今まで乗ってきたグラシアへの愛着もあります。5万キロちょっとしか走っておらず、まだまだ乗れるのになんだかかわいそう。こういった非合理的な考えをどうしても追い払うことができないのは損な性格です。勝手な言い分ですが、グラシアにはいい人に乗ってもらいたいものです。そんなことをとりとめもなく考えていると、営業から連絡があり、アウディは日本に到着し、豊橋でPDI (納車前整備点検) の最中だとのことです。まだ9月中に納車できるかどうかは分からないが、急かしてみるとのこと。

 ついに納車の日取りが決まりました。9月末には納車されるそうで、0.9%金利が適用されます。しかも、MMSのキャンペーンが延長されて (あるいは、標準価格が変更になって)、18万円でいいそうです。なんて運がいいのでしょう。鬱な気分が多少和らぎました。さっそく本契約に行きます。納車日は9月末の日曜日 (大安) と決まりました。実印を押して、後は車が来るのを待つだけです。考えてみると、MMSが14万円安くなり、金利が10月以降2%になったとしたら、400万円だと3年で13万円もお得です。合計すれば27万円。これは大きいです。車を買うときはタイミングが大事だということがよく分かりました (実はその後、低金利キャンペーンが12月まで延長されることになるのですが、これは当時ディーラーでも分からなかったことです)。

 納車はディーラーまで出向きました。納車費用を取られているのですが、S4デビューキャンペーンの日なので、できれば来て頂けないかと言います。納車費用は納車前の洗車などの費用だと説明をすでに受けており、必ずしも納得はしていませんでしたが、細かいことは気にしないことにします。なんと言ってもごねるのは面倒。操作方法の説明 (特にリアフォグランプは後続車に迷惑なので、滅多に使わないことという注意を受けた) を一通り受け、グラシアのキーを渡します。前日にグラシアはぴかぴかに磨いてやりました。我が家では新車を購入する時にはそれまで乗っていた車をぴかぴかにするのが儀式になっていたので、どうしても徹底的に磨かなければ気が済みません。いつもはしない室内の清掃もきちんとしました。ディーラーには納車を待つモロブルーのA4と、2003年モデルのミングブルーの試乗車がありましたが、近くで見ても色の違いはよく分かりません。ミングブルーの方が黒に近いそう。

 右ハンドルなのにウィンカーレバーが左側にあって、なかなか慣れず、家に到着するまではずいぶん緊張しました。納車された日は、ゆっくりと説明書を読むことにしましたが、結局隣県までドライブに行きました。

おしまい

番外編:交渉の時に気をつけるべきこと

 セールスマンがよく使う営業上のテクニックのいくつかを紹介します。

  1. 段階的要請法 (the foot-in-the-door technique)

     最初に誰にでも受け入れてもらえるような小さな要請をして承諾を得た後で、本来の目的である大きな要請を承諾させる方略です。ディーラーから「試乗だけでも」とか「下取り車の見積もりだけでも」といった連絡を受けて、行ってみたら契約書に印鑑を押していた、なんてことがあります。Freedman & Fraser (1966) の実験では、まず、家庭の主婦に「家具についての調査」について簡単な質問に答えてほしいという要請をします。簡単な質問ですぐに済むものですから、ほとんどの主婦はこの要請を受けて回答します。しかし、本当の狙いはこの小さな要請ではありませんでした。簡単な質問をした数日後、実験者は、複数の調査員が伺って数時間にわたる家具の調査をさせてもらいたい、というたいへん面倒な要請をします。この要請は単独でなされた時には20%程度の承諾率だったのですが、あらかじめ簡単な質問に回答してもらっていた群では50%以上の承諾率を得ることができました。このように、私たちは一度相手の要求を受けてしまうと、断りにくいという心理的な特性を持っています。こうしたテクニックに引っかからないためには、興味がない場合にははじめからどんな小さな要請でも受けない、不用意に実印を持って行かない、といったコミットメントを行う必要があるかもしれません。

  2. 譲歩的要請法 (the door-in-the-face technique)

     段階的要請法と逆に、最初にどう考えても断られると思われる大きな要請をし、相手に断らせた後で、本来の目的である小さな要請を承諾させる方略です。Cialdiniら (1975) の実験では、大学生に「非行少年のグループを動物園に連れて行くのを、2時間ほど手伝ってほしい」と要請します。これは面倒な仕事ですから、承諾率は17%しかありませんでした。しかし、事前に「2年間続けて、毎週2時間非行少年のカウンセラーをつとめてほしい」と要請して断らせた群では、承諾率がなんと50%にもなったのです。この結果は、従来「返報性の原理」から説明されてきました。相手が譲歩して小さな要請をしてきたのだから、次に譲歩するのは自分の方だ、と思ってしまうというのです。セールスマンが「値引きは3%で計算しました」と見積書を持ってきて、あなたが、「そんな値引きでは買えない」と断ったとします。セールスマンが少し困った顔をして、「それでは、マネージャーにお願いしてきます」と奥に引っ込み、「がんばりました。8%でどうでしょうか」と新しい見積書を持ってきたらどうでしょう。この方略は、自分の奥さんに新車購入の話を切り出す時にも使えます。「今度は A6 がほしいなあ。500万円くらいなんだけど……」と最初に断られそうな要請をします。奥さんが、「あなたの稼ぎでは無理に決まってるじゃない」と断った後で、「分かった、A4 で我慢するから、新車を買おうよ。400万円くらいだよ」と譲歩してみましょう。必ずしもうまくいくとは限りませんけどね。

  3. 承諾先取り法 (the low-ball technique)

     魅力的な提案をし、それを受け入れさせた後で、当初約束した特典の一部を取り去ってしまう方略です。例えば、あなたが、80万円程度の値段しか付かない車に乗っているとしましょう。冷やかしで訪れたディーラーで、「お乗りになっているお車の下取りは、うちだとがんばって70万円ですが、決算期ですので、20万円するオプションのアルミホイールもお付けします」と営業マンに提案されます。とても魅力的な条件なので、あなたはその条件を飲み、新車の契約を進めることになりました。ところが、契約間近になって、「たいへんすみませんが、この条件では無理だとマネージャーに言われまして……オプションのアルミホイールは無料で付けられないことになってしまいました。ただ、アルミは半額の10万円にさせていただきますので、何とか契約していただけないでしょうか」と担当の営業に泣き付かれたらどうでしょうか。最初に承諾してしまった手前、あなたはとても断りにくくなっているのではないでしょうか。


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